大判例

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高松高等裁判所 昭和32年(う)339号 判決

原判決は、本件公訴事実と同一の犯罪事実即ち昭和三十一年十二月七日頃から昭和三十二年一月九日頃迄の間における十一回に亘る金品窃取の事実を認定したが、右事実は、被告人が昭和三十二年二月六日松山簡易裁判所で窃盗罪として懲役二年の確定判決を受けた同年一月十日の増田増雄方におけるオーバー生地窃取の事実と包括して一個の盗犯等の防止及び処分に関する法律第三条第二条第二号第四号を適用すべき常習窃盗に該当するものとなし、その一罪の一部について既に確定判決を経た以上本件起訴事実にも該確定判決の既判力が及ぶものとして免訴の言渡をなしたものであることは論旨指摘のとおりである。所論は先ず既判力の限界は現実に審判の対象となつた事実の範囲に止まり、捜査の困難等から全く審理にその事実が現われず審判の対象とならなかつたものには既判力は及ばないと解すべきであるという。

しかし当該確定判決にかかる事実と起訴事実との間に単一性又は、同一性が存する以上は、その事件そのものは本来法律上単一であり又は同一事件に外ならぬからたとえその事実が捜査の困難その他の理由により審理の対象とならなかつた場合においても、確定判決の効力は全面的にこれに及び、従つて更にその後これを別途審理の対象として起訴することは許されないものといわなければならない。この理は旧刑事訴訟法下においては勿論現行刑事訴訟法下における訴因制度の下においても何等異るところがあるものではない。従つて右論旨は原判決を不当とする理由とはならない。次に論旨は仮りに確定判決の既判力が判決のあつた事実と単一性又は同一性を有する犯罪事実の全部に及ぶとしても、なお原判決が既判力の範囲を不当に拡張解釈した違法がある。被告人が昭和三十二年一月十日午前零時四十分頃増田増雄方でオーバー生地を窃取した事実は本来は本件公訴事実と共に一個の常習窃盗を構成するものではあるが、松山簡易裁判所はこれを単純窃盗と認定しかつその判決が確定した以上、右確定判決は最早他の裁判所の判決を以つてしてもこれを動かし得ないものといわなければならず、右窃盗としての確定判決の既判力はその窃盗と実体法上一罪と認められる範囲内の事実にのみ及ぶに過ぎない。然るに原判決はこの確定判決にかかる単純窃盗としての事実を常習窃盗と認定した上、右確定判決の既判力が本件公訴事実にも及ぶとしたのは明らかに既判力の範囲を不当に拡張解釈した違法があるというのである。

しかし原判決は被告人が昭和三十二年一月十日増田増雄方でなした窃盗に関する確定判決を変更して居るのではない。只その確定判決の既判力の範囲を考究する上において、叙述の方法は異るけれども、要するにその確定判決は常習窃盗を構成する一罪の一部について行われた判決であるとしているに過ぎないのである。確定判決の既判力を定めるにあたつてはこのようなことは当然立論しなければならないことであり左様な立論をしたからといつて確定判決を変更したことにはなるものではない。而して既に一罪の一部につき確定判決が存する以上その確定判決が常習窃盗としての確定判決でなく窃盗としての確定判決であつても一罪の一部について確定判決があつたことに変りがなく、その確定判決の効力はそれと単一性又は同一性を有する事実全部に及ぶことは前段にも叙説したとおりであり、かつ単純窃盗と常習窃盗との間には公訴事実の同一性の存することは論を俟たないところであるから、この論旨も又原判決を不当とする理由とはならない。

論旨は更に本件公訴は単純窃盗として起訴した事実であるのにもかかわらず、原判決は訴因変更の手続を経ることなく訴因として明示されない常習窃盗の事実を認定したのは明らかに審判の請求を受けない事件について判決をした違法があるというので、この点につき審究するに、なるほど原審記録中には所論の如き訴因変更の手続を経由した事実は認められないから、結局原判決は単純窃盗として起訴された事実を訴因変更の手続を経ることなく前掲確定判決にかかる事実をも含めて一個の常習窃盗を構成するものであると認定したことは明らかである。窃盗と常習窃盗とは共に他人の財物を窃取したという点においては同一ではあるけれども、前者は刑法所定の罪であり後者は盗犯等の防止及び処分に関する法律に定める罪であつて、後者は前者に比しその刑期において加重せられて居るのみならず同法第二条第三条所定の如き特別の構成要件を必要とするからこの点において訴因変更の手続を要するものといわなければならない。然るにその措置を採ることなく単純窃盗としての起訴事実を常習窃盗として認定したのは、たとえそれが被告人に対し常習窃盗として有罪判決を言い渡すための罪となるべき事実として判示するためではなく確定判決の既判力の及ぶ範囲を確定する必要上からの認定であるとしても審判の請求を受けない事件について判決をした違法があるものといわなければならない。

(裁判長判事 玉置寛太夫 判事 渡辺進 判事 安芸修)

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